INTRODUCTION

数奇な運命をたどった
《イタリア海軍潜水艦
コマンダンテ・カッペリーニ》
イタリア海軍潜水艦コマンダンテ・カッペリーニは1939年に就役し第二次大戦に参加、戦局によってイタリア、ドイツ、日本と渡り歩き数奇な運命を辿った潜水艦である。1943年、ドイツ軍の指導下で極東に派遣される際、「アキラ3号」の仮称を付与された。直後にイタリアが降伏すると日本軍によって拿捕され、その後ドイツ軍に引き渡されて「UIT24」と改名。さらにドイツ降伏後には再び日本軍に接収され「伊号第五百三潜水艦」として特殊警備潜水艦となり、1945年の日本軍降伏後に連合国に接収され、紀伊水道で海没処分された。ドイツ軍下にあってもドイツの傀儡であるサロ政権側についたイタリア海軍将兵が乗艦し、日本軍下でも日本側についたイタリア人水兵が乗艦していた。彼らは戦後も日本に残り遺族は現在も日本で暮らしている。なお、本艦をモチーフにしたスペシャルテレビドラマが二宮和也主演で制作され、「潜水艦カッペリーニ号の冒険」として2022年正月に放映されて話題となった。
実話を基に描かれる、
海の男たちの誇りと絆の戦争秘話
2023年ヴェネツィア国際映画祭オープニング作品。本作は、第二次大戦中、イタリア海軍潜水艦コマンダンテ・カッペリーニが沈めた敵国船の乗組員を救助したという実話を基に、戦時下においても決して失われることのない海の男たちの誇りと絆(シーマンシップ)を描いた重厚な戦争秘話。イタリア海軍の全面協力を得て実物大の潜水艦コマンダンテ・カッペリーニを再現。CGでは表現できない本物の重厚な質感とクルーたちの過酷な勤務描写が、潜水艦映画の傑作『U・ボート』と比肩するクオリティを堅持し、「潜水艦映画」に目の肥えた観客たちを唸らせるだろう。監督は本作で2度目のヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に選出されたエドアルド・デ・アンジェリス。主演のサルヴァトーレ・トーダロ艦長を演じるのは数々のイタリア映画の巨匠たちに重用されてきた名優ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ。

STORY

1940 年 10 月、イタリア海軍潜水艦コマンダンテ・カッペリーニは、イギリス軍への物資供給を断つために地中海からジブラルタル海峡を抜けて大西洋に向かっていた。その作戦行動中、船籍不明の貨物船に遭遇する。艦砲を装備し、戦争地帯で灯火管制をしての航行であったためこれを撃沈。だがそれは中立国であるはずのベルギー船籍の自衛武装を備えた貨物船カバロ号だった。“イタリア海軍一無謀な少佐”サルヴァトーレ・トーダロ艦長は「我々は敵船を容赦なく沈めるが、人間は助けよう」とその乗組員たちを救助し、彼らを最寄りの安全な港まで運んでいく決断を下す。だが狭い潜水艦の艦内に彼らを収容するスペースはない。しかもその決断は、潜水艦唯一の長所ともいえる敵に見つからないよう潜航するのをあきらめ、自らと部下たち、さらには艦を危険にさらすのを覚悟のうえで、無防備状態のままイギリス軍の支配海域を航行することに他ならなかった——。

CAST

PIERFRANCESCO FAVINO
ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ
サルヴァトーレ・トーダロ艦長役
MASSIMILIANO ROSSI
マッシミリアーノ・ロッシ
ヴィットリオ・マルコン副長役
JOHAN HELDENBERGH
ヨハン・ヘルデンベルグ
ヴォーゲル艦長役
ARTURO MUSELLI
アルトゥーロ・ムゼッリ
ダニロ・スティエポヴィッチ役
GIUSEPPE BRUNETTI
ジュゼッペ・ブルネッティ
ジジーノ・マグニフィコ役
GIANLUCA DI GENNARO
ジャンルカ・ディ・ジェンナーロ
ヴィンチェンツォ・ストゥンポ役
JOHANNES WIRIX
ヨハネス・ヴィリックス
ジャック・レクレルク役
SILVIA D’AMICO
シルヴィア・ダミーコ
リナ・トーダロ役
PIERFRANCESCO FAVINO
ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ
サルヴァトーレ・トーダロ艦長役
1969年、ローマ生まれ。シルヴィオ・ダミーコ国立演劇芸術アカデミーを卒業後、90年代からテレビと映画で活躍。2000年代に入ると、ガブリエレ・ムッチーノ監督『最後のキス』(01)、ジャンニ・アメリオ監督の『家の鍵』(04)、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の『題名のない子守唄』(06)などに出演。その後は活躍の場を国際的に広げ、『ナイト・ミュージアム』(06)、『ナルニア国物語 第2章:カスピアン王子の角笛』(08)、『天使と悪魔』(09)、『ワールド・ウォーZ』(12)、『ラッシュ プライドと友情』(13)などのハリウッド大作に出演するなど世界的な俳優となる。ほかの主な作品は、『修道士は沈黙する』(16)、『シチリアーノ 裏切りの美学』(19)など。
MASSIMILIANO ROSSI
マッシミリアーノ・ロッシ
ヴィットリオ・マルコン副長役
1970年、ナポリ生まれ。90年代から舞台でキャリアをスタート。2014年にテレビシリーズ「ゴモラ」への出演で一般的に名を知られるようになる。2011年にエドアルド・デ・アンジェリス監督の『Mozzarella Stories』(11)でスクリーンデビュー。同監督の『切り離せないふたり』(16)で高い表を受け、ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞助演男優賞にノミネートされる。主な作品は、『堕ちた希望』(18)、ソフィア・ローレン主演の『これからの人生』(20)など。
JOHAN HELDENBERGH
ヨハン・ヘルデンベルグ
ヴォーゲル艦長役
1967年、ベルギー生まれ。ベルル・バーテンスとダブル主演を果たしたヘリックス・バン・ヒュルーニンゲン監督の『オーヴァー・ザ・ブルー・スカイ』(12)はベルギー代表作品として、2014年アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた。主な作品は、『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』(17)、『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』(18)、『アイダよ、何処へ?』(20)、『最悪な子どもたち』(22)など。
ARTURO MUSELLI
アルトゥーロ・ムゼッリ
ダニロ・スティエポヴィッチ役
1983年、ナポリ生まれ。3年間演技の勉強をしたのち、2002年に舞台デビュー。映画デビューは2004年のパオロ・ソレンティーノ監督作『愛の果てへの旅』。主な作品は、『ナポリの隣人』(17)など。
GIUSEPPE BRUNETTI
ジュゼッペ・ブルネッティ
ジジーノ・マグニフィコ役
1995年、ナポリ生まれ。2015年より舞台デビューし注目され始め、テレビシリーズに出演。音楽も得意とする若きバイプレイヤー。主な作品は『Bitter Years』(19)、『笑いの王』(21)など。
GIANLUCA DI GENNARO
ジャンルカ・ディ・ジェンナーロ
ヴィンチェンツォ・ストゥンポ役
1990年、ナポリ生まれ。11歳のときに舞台デビュー。その後も順調に多数のテレビシリーズや映画で活躍。主な作品は、『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(15)など。
JOHANNES WIRIX
ヨハネス・ヴィリックス
ジャック・レクレルク役
1997年、ベルギー生まれ。アントワープ王立音楽院を卒業。ローマにあるシルヴィオ・ダミーコ国立演劇芸術アカデミーでも学び、俳優および劇作家としても活躍している。本作で本格的に映画デビュー。
SILVIA D’AMICO
シルヴィア・ダミーコ
リナ・トーダロ役
1986年、ローマ生まれ。シルヴィオ・ダミーコ国立演劇芸術アカデミーを卒業後キャリアをスタート。『Don’t Be Bad』(15)の演技が認められ、2015年ヴェネツィア国際映画祭においてスターライトシネマアワードのブレイクスルー女優賞を受賞。主な作品は、『ザ・プレイス 運命の交差点』(17)など。

STAFF

Director Screenplay Story EDOARDO DE ANGELIS
監督・脚本・原案:エドアルド・デ・アンジェリス
1978年、ナポリ生まれ。マルコ・ベロッキオらも学んだローマのイタリア国立映画実験センターを2006年に卒業。『Mozzarella Stories』(11)で長編映画デビュー。2作目の『Perez.』(14)は2014年ヴェネツィア国際映画祭のアウト・オブ・コンペティション部門に招待される。4作目の『切り離せないふたり』(16)は2016年ヴェネツィア国際映画祭ヴェニス・デイズに出品、イタリアアカデミー賞のダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞ではほぼすべての部門でノミネートされ、自身は脚本賞を受賞。5作目の『堕ちた希望』(18)は2018年東京国際映画祭にて監督賞を受賞、妻であるピーナ・トゥルコが最優秀女優賞を受賞するなど話題を集めた。自身の監督作品はすべて脚本も務めている。
Screenplay SANDRO VERONESI
脚本:サンドロ・ヴェロネージ
1959年、フィレンツェ生まれ。小説家として数々の賞を受賞。2000年に発表した「過去の力」はブルーノ・ガンツとセルジオ・ルビーニ共演で映画化され2002年ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門正式出品作品に選出。2005年発表の「静かなカオス」は『クワイエットカオス~パパが待つ公園で』としてナンニ・モレッティ主演で映画化され、2008年ベルリン国際映画祭コンペティション部門正式出品作品に選出されるなど、高い評価を受けている。
Scenography CARMINE GUARINO
美術:カルミネ・グアリーノ
1981年、ナポリ生まれ。パオロ・ソレンティーノ監督の『家族の友人』(06)作品の美術アシスタントとしてキャリアをスタート。主な作品は『ニーナ ローマの夏休み』(12)、パオロ・ソレンティーノ監督作品でアカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされた『Hand of God -神の手が触れた日-』(21)など。
Photography FERRAN PAREDES RUBIO
撮影:フェラン・パレデス・ルビオ
1975年、バルセロナ生まれ。カタルーニャで撮影を学び、エル・パイスなどのスペインの新聞社やロイター通信でフォトジャーナリストとして働き始める。2003年にイタリア国立映画実験センターを卒業して映画の撮影監督として活躍。主な作品は『切り離せないふたり』(16)など。
Music ROBERT DEL NAJA
音楽:ロバート・デル・ナジャ(3D)
1965年、イギリス生まれ。グラフィティーアーティストとして有名になり、ブリストルの音楽集団「ワイルド・バンチ」のメンバーとして活躍。1988年にバンド「マッシブ・アタック」の創設メンバーとなり、現在も活動している。一般的には「3D」という名称で知られており、バンクシーの正体として噂される1人である。主な作品は『バトル・イン・シアトル』(04)など。

DIRECTOR’S NOTE

本当に強い人とはどういう人なのか。イタリア人であることとはどういうことなのか。イタリア湾岸警備隊の123周年記念において報告されたアドミラル・ペットリーノの素晴らしい逸話を2018年に聞いた時からこの考えを巡らせています。ペットリーノは、難破船の生存者、女性や子どもたち、海でおぼれた人たちに対してイタリアの港が受け入れを拒否し始めた時に、船乗りたちにどのような行動を取るべきか語る必要があった。

そして大戦時に敵国船を沈めたが乗組員を救助したイタリア人潜水艦乗りであったサルヴァトーレ・トーダロ艦長の比類なき逸話を引き合いに出した。この出来事は、国際海洋法が真に定めるところであり、常に為されてきたことであり、これからも変わらず為されなければならないことであるからだ。2000年前のローマのガレー船の船長は、1940年の大戦下の大西洋で潜水艦を率いた男と同じ人物だ。その男の名前はサルヴァトーレ。彼は強い男だ。彼は強固な敵国船に恐れをなさず無慈悲に沈めるが、無防備な敵はすでに敵ではなく、ただの人間であり、ゆえにそれを助ける。なぜなら真に強い者というのは弱き者に手を差し伸べられる者であるからだ。サルヴァトーレは空と海を統べる不屈の掟を知っている。それは他のいかなる法律をも凌駕するものである。ひとりの人間を救った者は誰であれ、人類の救世主たりうるのである。

SET DESIGN NOTES

実物大の潜水艦コマンダンテ・カッペリーニの建造は2020年に始まった。美術のカルミネ・グアリーノ(『切り離せないふたり』(16)、『堕ちた希望』(18)、『The Hand of God』(21))は、長く綿密な調査をし、総合造船グループであるフィンカンティエリの協力によって精密な部品の資料をもって建造計画を立てた。73メートルの鉄の船体に仕上げるためにまず3Dで潜水艦コマンダンテ・カッペリーニ号を再現した。美術チームは何か月も作業をし、150を超える製図版を作成、すべてのディテールを描写し全長を原寸で確認しオリジナルの特徴を捉えた。海軍のエンジニアであるニコラ・フェラーリ氏によってデザインされた喫水線の製図によって、船体の直線と曲線を再現するために3Dと2Dの両方のモデルを活用することができた。

美術チームの努力によって、コマンダンテ・カッペリーニのデジタルモデルができあがった。デザインは完了し、次のフェーズに移る。ヨーロッパ最大級の映画撮影所チネチッタの協力を得て、まずは大きな部分である船体の建造を開始、そしてハッチや司令塔、艦砲の細部の制作が始まった。ローマのチネチッタのスタジオで建設され、それを分解し南部のターラントまで運び、イタリア海軍のサポートもあり兵器工場にあるフェラーティドックに格納された。潜水艦は浮橋に設置され、曳航され海に放たれた。そして、すべての海中シーンに使用された。艦内の撮影においては既存のドイツの潜水艦セットをイタリア式に改造して使用した。艦長室は50ものスケッチを用いてゼロから制作されたものである。